|
捜査は、裁判において、適正な事実を認定し、かつ適正な量刑を得ることが最終日標であり、そのためには、まず被疑者を取り調べて真実を供述させることが事件の真相を解明する上で重要である。
そして、その被疑者の供述を証拠とするためには供述調書を作成して、裁判の場に提出しなければならない。供述調書は、証拠となるものであり、裁判官に読んでもらい、納得してもらえるものでなければ意味がないのであり、供述調書の作成にあたっては、取調官において犯罪の構成要件を正確に把握した上、被疑者の供述をありのままに録取するとともに、犯行の動機、犯意、犯行状況などそれぞれの構成要件に即した要点を的確に押さえた供述調書を作成することが必要である。
本書は、刑法犯の犯罪捜査に当たる第一線の捜査官の実務の参考になるように、事案の概要と該当する法条、取り調べに当たって留意すべき事項について記述し、さらに具体的な供述調書の書き方について解説したものである。
本書の発刊以来、様々な法改正がなされていたが、時代も令和へと代わり、平成29年には、性犯罪関係での重要な法改正が行われた(平成29年法律第72号、同年7月13日施行)。そこで、今回の改訂にあたっては、この法改正を踏まえ、新しい構成要件に即した供述調書を作成する際の参考となるよう内容を改めた。
また、侵入盗の項において、侵入時に他の犯罪(器物損壊等)を伴うケースなどを想定した解説を加筆したり、構成要件を正確に把握できるよう条文を記載するなど利便性を図った。
捜査実務に携わる方々の一助となれば、幸甚である。
本書はしがきより
【本書の特色】
① 総論では、「作成の目的」「良い調書とは」「その他の注意点」など、供述調書作成上の留意点について解説。
② 各論では、各事案毎に「事案の概要(被疑事実)」、「該当法条(条文掲載)」、「取調べるべき事項」について解説した後、具体的な「供述調書の書き方」について解説。
③ 各論の各事案は、罪毎に「犯罪の構成要件」と「捜査のポイント」をわかりやすく解説。解説では、条文が掲載されているので条文を参照しながら犯罪の構成要件を正確に把握できる。
④ 各論の「供述調書の書き方」では、「供述調書」と「注意事項」が同じページの中で上下にレイアウト表記されているので、「供述調書」と「注意事項」を照らし合わせやすく、具体的でわかりやすい。そのため、犯罪の構成要件に即した供述調書が作成しやすい。
⑤ 平成29年の性犯罪関係での法改正に対応させた他、侵入盗の項において他の犯罪(器物損壊等)を伴うケースを想定した解説を加筆。
【本書の内容】
〈総 論〉
供述調書作成上の留意点
第1項 作成の目的
1 裁判官に理解してもらう
2 有利不利を問わず、ありのままに録取して信用性を高める
第2項 良い調書
第3項 その他の注意点
1 ワープロ調書について
2 供述者の特性を考慮した調書について
3 主観面の録取の必要性について
4 供述調書の中には、できる限り「情状に関する具体的事実と心情」を織り込む必要がある
5 否認から自白に転じたり、供述内容に変遷があった場合、なぜ供述が変わったか、必ずその理由を誰もが納得するように説明させて録取する必要がある
6 その他
〈各 論〉
第1章 公務執行妨害
1 事案の概要
1被疑事実の要旨
2該当法条(第95条第1項)・条文
2 取調べるべき事項
1.相手が公務員であり、職務の執行中であることの認識
2.「暴行」・「脅迫」
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)
第2章 住居侵入
[前注]
1 解 説
1.1客体
2.故なく侵入(※侵入目的、不退去理由の検討)
3.故意のあることについての認識
4.侵入方法・不退去の具体的状況の特定
第1項 住居侵入−野宿目的
1 事案の概要
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第130条前段)・条文
2 取調べるべき事項
1.侵入の目的
2.客体
3.侵入態様
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)
第2項 住居侵入−わいせつ目的
1 事案の概要
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第130条前段)・条文
2 取調べるべき事項
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)
第3章 文書偽造
第1項 文書偽造−私文書偽造・同行使(預金払戻請求書の偽造等)
1 事案の概要
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第235条、第159条第1項、第161条第1項、第246条第1項)・条文
2 取調べるべき事項
1.動機、犯行に至る経緯、共犯者の有無
2.行使の目的
3.私文書
4.文書名義人が実在すること又は実在すると思われるような名義人であること及びこれらの点に対する認識
5.偽造
6.行使
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)
第2項 文書偽造−私文書偽造・同行使(交通切符供述書部分の偽造等)
1 事案の概要
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第159条第1項、第161条第1項)・条文
2 取調べるべき事項
1.当該文書の作成権限がないこと(承諾等がないこと)
2.行使の目的があること
3.権利、義務に関する文書あるいは事実証明に関する文書であること
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)
第4章 強制性交等、監護者わいせつ及び監護者性交等
1 事案の概要
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第177条後段)・条文
2 取調べるべき事項
1.動機、犯行に至る経緯
2.客体
3.暴行又は脅迫
4.行為
5.その他
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)
第5章 傷 害
1 事案の概要
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第204条)・条文
2 取調べるべき事項
1.常習性
2.犯行に至る経緯、動機
3.犯行状況
4.飲酒時の責任能力
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)
第6章 窃 盗
第1項 窃 盗−侵入盗
1 事案の概要
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第235条)・条文
2 取調べるべき事項
1.犯行に至る経緯・常習性、計画性等
2.被害者との関係、面識、交友関係、親族関係の有無
3.犯行状況(侵入盗の場合は侵入の方法も)
4.犯行後の状況等
5.その他
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)
第2項 窃 盗−万引き
1 事案の概要
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第235条)・条文
2 取調べるべき事項
1.犯意の発生時期
2.スーパー、いわゆるコンビニのようにレジがある場合は、同所を通過する際の心理状況
3.所持金の有無、動機との関係
4.万引きの目的
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)
第7章 強 盗
第1項 強 盗−コンビニ強盗
1 事案の概要
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第236条)・条文
2 取調べるべき事項
1.犯行動機、犯行に至る経緯
2.犯行日時場所
3.反抗抑圧状況
4.被害結果
5.再犯の可能性
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)
第2項 強 盗−タクシー強盗
1 事案の概要
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第236条)・条文
2 取調べるべき事項
1.犯行動機、犯行に至る経緯
2.犯行日時場所
3.反抗抑圧状況
4.被害結果
5.再犯の可能性
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)
第8章 詐 欺
[前注]
1 解 説
1.客体
2.行為(①欺く ②交付させる ③欺く行為と交付行為との間に因果関係があること)
3.主観的要素
2 取調べるべき事項(詐欺全般)
1.詐欺の犯意
2.欺罔行為(行為)
3.相手方が錯誤に陥ったこと
4.被害者の任意の交付があったこと
5.欺罔行為と錯誤と任意の交付との間に因果関係があること
6.犯人と受益者は同一人か
7.被欺罔者と被害者は同一人か、異なる場合には両者の関係
8.犯人と被害者(被欺罔者)との関係
9.騙取が権利行為に基づくものでないこと
10.その他の注意事項
第1項 詐 欺−無銭飲食
1 事案の概要
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第246条第1項)・条文
2 取調べるべき事項
1.無銭飲食の罪数
2.無銭宿泊の罪数
3.無銭飲食、無銭宿泊、無賃乗車の場合の欺罔行為
4.2項詐欺の場合の処分行為
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)
第2項 詐 欺−寸借詐欺
1 事案の概要
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第246条第1項)・条文
2 取調べるべき事項
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)
第3項 詐 欺−カード詐欺
1 事案の概要
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第246条第1項)・条文
2 取調べるべき事項
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)
第9章 横 領
1 事案の概要−業務上横領
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第253条)・条文
2 取調べるべき事項
1.犯人が占有(所持)するに至った事情
2.占有(所持)物は、他人の物または公務所より保管を命ぜられた自己のものであること
3.客体
4.横領行為
5.その他
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)−その1
4 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)−その2
第10章 恐 喝
第1項 恐 喝−暴力団の名をかたる
1 事案の概要
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第249条第1項)・条文
2 取調べるべき事項
1.犯人の悪性
2.故意
3.行為
4.被害者の畏怖
5.財物の交付または財産上の利益の提供
6.その他
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)
第2項 恐 喝−路上恐喝
1 事案の概要
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第249条第1項)・条文
2 取調べるべき事項
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)
第11章 盗品等に関する罪
1 事案の概要
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第256条第2項)・条文
2 取調べるべき事項
1.犯行に至る経緯、常習性
2.依頼者との関係、特に親族関係の有無
3.犯行状況(①盗品であることの認識について ②盗品等に関する罪全般について)
4.犯行後の状況等
5.その他
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)
第12章 器物損壊
1 事案の概要
1.被疑事実の要旨
2.該当法条(第261条)・条文
2 取調べるべき事項
1.動機、犯行に至る経緯
2.客体(他人の器物)
3.損壊又は傷害
4.告訴の有無
3 供述調書の書き方(供述調書と注意事項)